だから島の中心部はちまちました住宅地だが、道が狭くそれが楽しい。
その辺りは「家プロジェクト」エリアで廃屋の歯医者跡が一つの作品として存在したり、「きんざ」では、時間予約で100年前の蔵?らしき土蔵のような中に一人だけ入り、真っ暗な中でぼんやり地面近くから入る光で「内藤礼」の地面に置かれた大きな輪っか状の物を眺める。
「それが何なの?」って気分もあるが。
「安藤ミュージアム」には、直島をアートの島に作り替えた、安藤忠雄の壮大な美術館群や宿泊施設の建築物のラフ・スケッチやドローイングや工事中の写真などが展示されている。
島全体を大改造してしまったかのようなビッグプロジェクトが20年ぐらい前から始まっていたのだ。
それは始めは誰のアイディアだったのだろう。ベネッセという会社が中心になってアートで島起こしを始めたのだろうか?
「地中美術館」は広く大きな美術館が地中に埋まっている。そして内部の作品が素晴らしい。感動する。
直島ばかりでなく瀬戸内海のいくつかの島が現代アートの島々になっているようだ。
豊島(てしま)という島には見たかった内藤礼の「母型」という水の溜まる真っ白な洞窟(どう説明していいのか分らないが、NHKの日曜美術館で見たのだが)があって見たかった。
直島から船に乗って豊島に行くにしても。
船で着いてからさらにモーターサイクルでその場所まで行かねばならないようで、とても2泊3日では足りなかった。
羽田から直島までで早朝出ても一日がかりだから正味、島を見るのは丸1日きりない。
観光客はちょっと見たところ半数が外国人で(見た目ほとんど外国人だらけ)それもヨーロッパ系の人々。
何でここにはこんなに外国人が来るの?と不思議に思う。
一人旅のドイツ語のおばさんや男同士の外国人や、中年の外国人カップルや、アジア人の女性の一人旅の人がたくさんいた。
移動のバスの中はいろいろな言語が飛び交っている。
ごく品のいい中国人の家族連れにも会った。中国人がアートの島に来るとは珍しいと思った。
彼らは大声でも話さないし、立ち振る舞いも洗練されていた。
新緑の季節で空気がきれいで気温も暑くなく寒くなく、どこを見ても広くて、美術館には世界に名だたる現代アートの巨匠たちの作品がある。
安田侃の大理石の大きな寝転びの石、寝転んで空を眺める石もあった。大理石がまるで柔らかいフワフワの真綿のようにそこにあった。
古いけどリキテンシュタインやウォフォール、ジャコメッティの細い人間の彫刻、島や谷を布で包む「クリストとジャンヌ=クロード」の島をピンクの布で包む大きなドローイングの作品が美術館の受付の壁に何気なくかかっている。
嬉しくなった。
それも、ミュージアムらしからぬ安藤忠雄の設計が迷路のように入り組んで、巨大で非日常的な空間の広々とした室内にたったひとりの作家の大きな作品がドデンと置かれている。
何と贅沢な時間、そして空間と静けさ。
ホテルについている美術館は夜に自分の部屋から出て暗い廊下をそーっと歩いて、それらのアートをゆっくり眺められる。
そんなことってある? 外国にもないでしょう。
人間の美に対する欲求をかなり満足させる場所がここだ。
美術館を巡る足はホテルが出しているバスで、頻繁に通っていて便利だしまた歩くのも気持ちがいい。
外国の人達はやたら歩いている。
朝食と夕食はホテルにあるレストランに事前に予約しておく。 瀬戸内海の新鮮な海の幸や野菜をたっぷり使った、フレンチや和食で日頃のこせこせした自前のごはんを忘れさせてくれる。
そうそう、ホテルの中にいっさいの張り紙やトイレの矢印やインフォメーションのお知らせなどが貼っていない。すっきりしている。
廊下のコンクリート打ちっぱなしの壁には本物の大作のアート作品があるだけ。部屋の壁にも大きな銅版画のオリジナルがかかっていた。
ウーン、おしゃれだ。
現代アートが分らなくても、滞在するだけで人間を取り戻せる時間がある。
月の王子のご招待の旅であったが、王子は1年前に来て感動して、どうしても私たち両親にこの贅沢な時間を味わって欲しかったのだそうだ。
特に腕組み王女には精神がリフレッシュされた旅で、価値があった。
いつもいつも次の作品に悩んでいるからね。
ラベル:旅