クッキーを焼いて、直島(なおしま)みやげの海苔の佃煮をもって、おキクさんの家に行く。
サダオさんが出て来た。
今回は「アメリカにでも行っていたのかい?」ではなくて、「全然顔を見なかったから病気でもしているのかと思ったよー、」と言われた。
心配してくれていたんだ。
で、おキクさんは髪を染めている途中なのに王女の声を聞いて染粉のついたままの格好で出て来た。
全く時間が取れなかったといくら言っても、どれほど忙しいかは絶対おキクさんは分らない。
絵を描いているぐらいでお向かい通しなのに顔を見せる時間も無いなんて考えられないのだ。
お喋りしているうちに近所のKさんも通りかかって、彼女も寄り込んでまわりの独居老人の生活がどんなに悲惨かの話になった。
話が長くなったので、おキクさんに「頭を洗って来てしまった方がいいよ。待っているから」と催促したので、おキクさんもやっと話し足りない気分をひきずって、奥に引っ込んで髪のヘアダイを洗い落としにいった。
そしてサダオさんからサイダーを振る舞われた。
しばらくして髪を拭きながらおキクさんが戻って来た。
サダオさんとおキクさん夫婦とKさんの4人で年を取ると体がどんだけ不自由になるかの話になった。
近所の一人暮らしの高齢者の生活状態の話から、もうわれわれも時間の問題だと結論づけた。
最近の話は、こういう内容ばかりで老人はこれから先のことを不安に思っているのだ。
話していて思うのは、人は自分の話ばかりをしたがる傾向がある。
今回はKさんの独壇場だった。 おキクさんも髪を洗ったらドライアーで乾かした方がいいよ、風邪引かないように、と解散した。
皆、人寂しいのだ。ちょっとでも顔を合わせるとどうでもない話でも、長くなってしまう。
こんな風に井戸端会議をいつもやっているわけではない。ごくたまのことだからみんな話したいのね。
ことに腕組み王女はほとんど大忙しで、お茶飲みしている時間が取れない。
だからおキクさんの家を覗くと大歓待してくれるのだが、のべつまくなし山から駆け下りて来るような女だから、ゆっくりお付き合い出来なくてゴメンね。
ラベル:生活